大学でシルクロードを学んでいて、私がいちばんわくわくしたのは、「同じ一本の道ぞいに、仏教のお寺と、火をまつるゾロアスター教の神殿と、キリスト教の教会が並んで残っている」と知ったときでした。ふつう、宗教はそれぞれ別の土地で信じられているイメージがありますよね。それが一つの回廊に折り重なっているというのが、なんとも不思議で魅力的だったんです。
その舞台が、まさにフェルガナ-シルダリヤ回廊です。シルクロードはモノだけでなく、人々の信仰も運びました。この記事では、この道に残る多宗教の痕跡を、仏教→ゾロアスター教→キリスト教とたどっていきますね。
この記事でわかること
・仏教が東へ伝わった証、クヴァの寺院跡
・火を神聖視したゾロアスター教の神殿
・信仰が入れ替わり、重なっていく洞窟聖堂と、今も生きる巡礼地
第I章 仏教が伝わった証・クヴァの寺院
フェルガナ盆地のクヴァには、7〜8世紀ごろのものとされる仏教寺院の跡が残っています。発掘では、仏塔の基壇や、塑像(そぞう=粘土で作られた像)の断片が見つかっており、この地に仏教が根づいていたことを物語っています。
仏教は、インドで生まれたあと、中央アジアを通って中国、そして朝鮮半島や日本へと伝わっていきました。その長い旅の途中にあったのが、まさにこのフェルガナ盆地です。私たちが親しんでいる日本のお寺や仏像も、はるばるこうした道を通ってきた文化の延長線上にあると思うと、少し身近に感じられませんか。

第II章 火を崇めた人々・ゾロアスター教の神殿
仏教が伝わる一方で、この地域にはさらに古くからゾロアスター教が広く信仰されていました。ゾロアスター教は、火を神聖なものとして大切にする宗教で、中央アジアからペルシアにかけて長く人々の心に根ざしていました。
回廊のなかには、火の祭壇をそなえたゾロアスター教の神殿の跡が残る場所があり、なかには最古級とされる遺構も報告されています。燃え続ける火を前に祈りを捧げた人々の姿を想像すると、この土地の信仰の深さが伝わってきますね。仏教とゾロアスター教が、そう遠くない距離で並び立っていたというのが、この回廊の面白いところです。
第III章 一つの聖堂に重なる信仰・洞窟教会
この回廊の宗教史でとりわけ興味深いのが、一つの聖なる場所が、時代とともに別の宗教に受け継がれていくという現象です。たとえば、もともとゾロアスター教の場だった洞窟が、のちにキリスト教の洞窟教会として使われたと考えられている遺跡があります。
ここで信仰されていたキリスト教は、東方へ広がったネストリウス派と呼ばれる流れをくむものでした。西アジアから中央アジアへ、そしてさらに東へと、キリスト教もまたシルクロードを通って伝わっていたのです。
同じ場所に、異なる信仰が地層のように積み重なっていく。それは、この地の人々が、対立だけでなく共存や受け継ぎのなかで信仰と向き合ってきたことの証でもあります。宗教のバトンが手渡されていくような感覚が、私はとても好きです。

第IV章 今も生きる巡礼地
この回廊の聖地は、過去の遺跡というだけではありません。サフィド・ブランのように、今も多くの人々が祈りに訪れる生きた巡礼地として大切にされている場所があります。長い歴史のなかで、やがてこの地域にはイスラームが広まり、聖地への祈りは形を変えながら現在まで続いてきました。
仏教、ゾロアスター教、キリスト教、そしてイスラーム。時代ごとに主役となる信仰は移り変わっても、「人が集い、祈る場所」であり続けてきたこと自体が、この回廊のいちばんの魅力なのかもしれません。世界遺産としての価値も、まさにこうした信仰の交差点という点にあります。
自由研究のヒント
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