大学でシルクロードを調べていたとき、「たった一つの盆地のために、漢の大軍がわざわざ二度も遠征した」という話に出会って、いったいそこにはどんな都市があったんだろう? と強く気になったのが、この記事を書いたきっかけです。
その舞台こそ、フェルガナ盆地です。ここにはシルクロードの東西交易を支えた古代都市がいくつも眠っていて、なかには皇帝が軍を送るほど欲しがった名馬の産地や、流れるような模様をもつ名刀を生んだ「鉄の都」もありました。この記事では、フェルガナ盆地の代表的な古代都市を順にめぐっていきますね。
この記事でわかること
・大宛(だいえん)の都と考えられるエルシ=ミングテパ遺跡とは
・名刀を生んだ「鉄の都」アクシケントの技術
・シルダリヤ川とともに栄えた古代都市たちの歴史
第I章 大宛の都・エルシ(ミングテパ)
フェルガナ盆地といえば、まず外せないのが大宛(だいえん/ダヴァン)という古代国家です。紀元前2世紀に漢の使者・張騫(ちょうけん)が伝えたことで中国にも知られるようになりました。その都だったと考えられているのが、現在のミングテパ遺跡、かつて「エルシ」と呼ばれた都市です。
ミングテパは、二重の城壁や防御施設をそなえた大規模な都市だったことが、発掘調査からわかってきています。土を突き固めて築いた分厚い壁が、盆地の平原にどっしりと構えていた様子を想像すると、当時のフェルガナがいかに豊かで、守るべき価値のある土地だったかが伝わってきます。
この大宛こそ、漢が名馬「汗血馬(かんけつば)」を求めて遠征した相手として有名です。走ると血のような汗を流すと伝えられた天馬をめぐる物語は、それだけで一つの大きなテーマなので、詳しくは別の記事でじっくり掘り下げたいと思います。ここではまず、「その伝説の舞台が実在の都市だった」という点を押さえておいてください。

第II章 名刀を生んだ鉄の都・アクシケント
フェルガナ盆地には、交易だけでなく「ものづくり」で名を馳せた都市もありました。その代表がアクシケント(アフシカト)です。ここは中世に冶金(やきん)=鉄づくりの中心地として栄えたことで知られています。
アクシケントで作られたとされるのが、ブーラート鋼(るつぼ鋼)です。これは、いわゆるダマスカス鋼の一種で、刀身の表面に水が流れるような美しい模様が浮かぶのが特徴。硬さと粘りをあわせ持つ高級な鋼で、刀剣の材料として珍重されました。
この鋼は、るつぼ(坩堝)と呼ばれる耐熱容器のなかで鉄を高温で溶かして作ります。温度や材料の配合をコントロールしなければならない、当時としてはとても高度な技術でした。交易路の都市が、遠くから運ばれる知識や技術も取り込みながら、独自の名産を生み出していたことがうかがえますね。

第III章 川とともに栄えた都市たち
フェルガナ盆地とその周辺には、エルシやアクシケントのほかにも、川の渡し場や交易の要所に発達した都市が点々とありました。たとえば古代都市ポップ(パップ)は、バランドテパ遺跡を起点に、およそ二千年にわたって人々の暮らしが続いたことがわかっています。シルダリヤ川を渡る要所として、交易キャラバンの往来を支えていました。
一方で、川のそばにあったがゆえの宿命もありました。シャフルヒヤのように、シルダリヤ川に削られて都市の一部が失われてしまった遺跡もあります。川は交易の恵みをもたらすと同時に、都市をゆっくりと呑み込む存在でもあったわけですね。
こうした都市は、時代の流れや外からの侵攻のなかで栄えたり衰えたりを繰り返しました。いま私たちが目にできるのは、その長い歴史が地層のように積み重なった遺跡です。一つひとつの土の壁の向こうに、行き交った人々の営みが確かにあったのだと思うと、フェルガナの平原の見え方が少し変わってきます。
自由研究のヒント
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