タシケント 世界遺産

地下鉄が美術館
タシケント駅建築めぐり

学生時代のゼミで旧ソ連の建築を調べていたとき、資料で見たタシケントの地下鉄の写真に釘付けになりました。「これ、本当に地下鉄? 美術館じゃなくて?」と何度も見返したのを覚えています。星空のような天井、宇宙飛行士のレリーフ、青いタイルの詩の世界——ひと駅ごとにテーマが変わる地下空間に、すっかり心を奪われました。今回、この街の建築群が世界遺産に登録されそうだと知って、OWT編集部としてあの“地下の美術館”をあらためて紹介したくなりました。

中央アジア初の地下鉄

タシケントの地下鉄は1977年に開通した、中央アジアで最初の地下鉄です。ただの移動手段ではなく、それぞれの駅が「作品」として設計されているのが最大の特徴。大理石の柱、装飾ガラスの照明、壁面のレリーフやモザイクが、駅ごとにまったく違う世界をつくり出しています。地下鉄の駅も、この街のモダニズムを代表する空間として、いま世界的に注目されています。

背景には、1966年の大地震の記憶もあります。地下鉄は耐震性を重視して頑丈に造られ、有事の際には人々を守るシェルターとしての役割も想定されていました。そうした「実用と安全」の土台の上に、これでもかというほど豪華な装飾が載せられている——このギャップこそ、タシケント地下鉄のいちばんの面白さかもしれません。

宇宙、詩、綿花——テーマのある駅

なかでも人気なのが、宇宙をテーマにしたコスモナフトラル(宇宙飛行士)駅です。1984年につくられたこの駅は、星形の照明が並ぶ天井と、ソ連の宇宙開発の英雄たちをたたえるメダリオンで飾られ、まるで地下に広がる宇宙のよう。深い青から白へと移り変わる壁面も見どころで、ホームに立つとちょっとした宇宙旅行の気分になれます。

タシケント地下鉄コスモナフトラル駅の宇宙飛行士メダリオンと深い青の陶板壁、星形照明が並ぶソビエト時代の地下空間デザイン
コスモナフトラル駅。宇宙飛行士のメダリオンと星形の照明が“地下の宇宙”をつくる

詩人アリシェル・ナヴォイの名を冠したアリシェル・ナヴォイ駅は、ターコイズブルーの陶板レリーフが主役。花文様や古典詩の世界が、青いタイルで美しく表現されています。中央アジアの伝統的な青いタイル装飾を、地下空間によみがえらせたような駅です。

タシケント地下鉄アリシェル・ナヴォイ駅のターコイズ青陶板レリーフ、ペルシア詩と花文様で飾られた中央アジア・ソビエト建築の装飾美
アリシェル・ナヴォイ駅。青いタイルに古典詩と花文様が織り込まれている

ほかにも、綿花(ウズベキスタンの“白い黄金”)をたたえる銅レリーフで飾られたパフタコル駅も見逃せません。暖色の大理石柱が並ぶホームは、青系の駅とはまた違う、あたたかみのある雰囲気です。

タシケント地下鉄パフタコル駅の綿花をたたえる銅レリーフ壁画、暖色大理石柱が並ぶウズベキスタンのソビエト・モダニズム建築
パフタコル駅。綿花をたたえる銅レリーフが、あたたかな色合いの空間をつくる

宇宙・詩・綿花——テーマを追いかけながら乗り換えていくと、地下鉄そのものが「ウズベキスタンが大切にしてきたもの」を並べた展示室のように見えてきます。

駅めぐりを楽しむコツ

かつては地下鉄構内の撮影が禁止されていましたが、現在は写真を撮ることができます。かつての「撮影NG」を知っている人ほど、堂々とカメラを構えられる今の状況に驚くはずです。まずは宇宙テーマのコスモナフトラル駅からスタートし、アリシェル・ナヴォイ駅の青い世界を抜けて、旧市街のチョルスー・バザール方面へ——という順で回ると、テーマの移り変わりを気持ちよく楽しめます。

乗車にはICカード(ATTO)が便利で、運賃も手頃です。1回の乗車で複数の駅に降りて見学しても、建築好きなら一日中いられるはずですよ。移動のついでに立派な芸術鑑賞ができてしまう——そんな街は、世界を見渡してもそう多くありません。学生時代に写真で憧れたあの空間を、いつか自分の足で歩いてみたいなと、記事を書きながらあらためて思いました。

自由研究のヒント
学年に合わせて、深掘りのテーマを用意しました

小学生むけ|自分の街の駅とくらべよう
いつも使っている駅と、タシケントの地下鉄の駅をくらべてみましょう。どこがちがうかな? 「駅を美術館みたいにする」って、どんな気持ちで作ったんだろう、と想像してみるのも楽しいですよ。自分だったらどんなテーマの駅にしたいか、絵に描いてみるのもおすすめです。
中学生むけ|なぜ地下鉄を“美術館”にした?
ソ連の地下鉄は「みんなのための宮殿」という発想で豪華に作られました。なぜ国は公共の場所にお金と芸術をつぎ込んだのか。宇宙・詩・綿花といったテーマ選びの意味とあわせて考えてみましょう。「誰もが使う場所を特別にする」という発想は、今の街づくりにも通じます。
高校生むけ|デザインが伝えるメッセージ
公共空間のデザインは、しばしば国家の価値観やメッセージを運びます。宇宙開発の誇り、地域文化への敬意、労働の賛美——駅の装飾から当時の社会が何を大切にしたかを読み解くと、デザインと社会の関係が見えてきます。「見せたいイメージ」と「実際の暮らし」のズレにも目を向けると、さらに深まります。

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