SWITZERLAND / WORLD HERITAGE

レーティッシュ鉄道
アルプスを越える世界遺産の絶景列車

アルブラ線・ベルニナ線と周辺の景観(2008年登録)

「イッテQ」をはじめ、テレビの旅番組でよく映る一場面があります。雪の谷にかかる石の橋を、真っ赤な列車がすーっと渡っていく——あの光景です。見るたびに「あの橋はいったい何だろう」「そもそも、なんでお城でも神殿でもなく“鉄道”が世界遺産なんだろう」と気になっていて、思いきって徹底的に調べてみたのがこの記事のきっかけです。

調べていくと、この鉄道のすごさは「絶景の中を走ること」そのものではありませんでした。アルプスという超難地形を、20世紀初頭の技術で、しかも歯車を使わない普通の鉄道として実用化し、今も生活と観光を支える現役路線として走らせ続けている——そこに世界遺産としての核心があったんですね。今回はその魅力を、私OWT編集部がわかりやすく整理してみました。

※この記事にはPRを含みます。

I. レーティッシュ鉄道ってどんな世界遺産?

レーティッシュ鉄道の世界遺産区間は、スイス東部のアルプスを貫く2つの路線でできています。ひとつがアルブラ線(トゥージス〜サンモリッツ・約67km)、もうひとつがベルニナ線(サンモリッツ〜イタリアのティラーノ・約61km)です。世界遺産として通しで旅する「アルブラ/ベルニナ・ルート」としては、約122kmと案内されることが多いですね。

「レーティッシュ鉄道はどこからどこまで走っているの?」とよく聞かれますが、旅の起点はスイス最古の町クールやサンモリッツ、終点はイタリアのティラーノ、というのが基本の押さえどころです。路線図で見ると、アルブラ線が北の谷を、ベルニナ線が峠を越えて南のイタリアへ抜ける形で、ちょうど1本の背骨のようにアルプスを縦断しています。

BASIC DATA

正式名称 Rhaetian Railway in the Albula / Bernina Landscapes
登録年 2008年
登録基準 (ii) 価値観の交流/(iv) 高山鉄道発展史
国 スイス(一部イタリア)

では、なぜ「鉄道」が世界遺産になったのか。ポイントは4つに整理できます。

① 厳しい山岳条件に応えた多様な土木技術、② 統一感のある高品質な設計、③ 鉄道施設がアルプスの景観に調和していること、④ 山岳地域の暮らし・観光・文化交流を長期的に変えたこと。つまり「古い鉄道だから」ではなく、技術史と景観史を同時に体現するインフラだからこそ選ばれたわけです。

II. 見逃せない三大絶景

深い谷に弧を描いてかかる石造アーチのランドヴァッサー橋を渡り断崖のトンネルへ吸い込まれるレーティッシュ鉄道の赤い列車
谷を渡ってそのまま崖のトンネルへ——ランドヴァッサー橋の象徴的な光景。※イメージ

1. ランドヴァッサー橋

アルブラ線を象徴する石造の高架橋で、高さ65m・長さ136m。有名なのは単に高いからではなく、橋がカーブを描きながら、渡りきった先でそのまま断崖のトンネルに吸い込まれていくからです。写真で見ると、列車がまるで空中へ消えていくように見えるんですね。今も1日およそ60本の列車がここを渡る、れっきとした現役の橋です。

2. ブルージオのループ橋

ベルニナ線がイタリア側へ急降下する区間にある、線路が360度ぐるっと回り込む円形の高架橋です。なぜこんな形が必要かというと、谷までの高低差が大きすぎて、まっすぐ下ると坂が急になりすぎるから。山道のヘアピンカーブを鉄道でやっているようなもので、わざと遠回りして距離をかせぎ、勾配をゆるめているんですね。

3. ベルニナ峠越え

ベルニナ線の最高地点はオスピツィオ・ベルニナ駅(標高2,253m)。ヨーロッパでも屈指の高所を走る鉄道です。最大の特徴は、トンネルで峠を「抜く」のではなく、氷河や湖のある開けた高地をそのまま「越える」こと。氷河の近くからスタートして、峠を越えると南のティラーノではヤシの木が見える——同じ鉄道で景色がガラッと変わる体験ができます。

III. 「歯車なし」でアルプスを越える技術

急な山を登る鉄道というと、線路の真ん中の歯車レール(ラック式)を思い浮かべる方も多いかもしれません。でもレーティッシュ鉄道の世界遺産区間は、普通の鉄道と同じ「車輪とレールの摩擦(粘着式)」だけでこの高低差を越えています。ここが最大の技術的ポイントなんです。

アルブラ線:勾配を抑えるため、らせんトンネル・カーブ・長大トンネルを多用。最高所はアルブラトンネル付近の約1,819m。

ベルニナ線:より急な勾配(最大70‰=7%)を許容し、道路沿いのルート・急曲線・ループ橋で一気に高度を処理。最高所は2,253m。

つまりこの鉄道は、山をまっすぐ征服したのではなく、山の地形にとことん合わせて設計された鉄道なんですね。この「自然への適応」そのものが、世界遺産評価の中心になっています。しかも現在は保存展示ではなく、アルブラトンネル区間だけでも年間約150万人が使う生活路線。老朽化した旧アルブラトンネルは壊さず「安全トンネル」として残し、すぐ隣に新トンネルを掘る——遺産を残しながら現役を続ける工夫も光ります。

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IV. 乗ってみたい人へ:2つの名列車

標高2000メートル超の高地にある氷河湖ラーゴビアンコのそばを走るベルニナ急行の赤いパノラマ車両とアルプスの雪山の絶景
高地の氷河湖のほとりを走るベルニナ急行のパノラマ車両。※イメージ

世界遺産区間を味わうなら、選択肢は大きく2つあります。

ベルニナ急行(世界遺産の核心を濃く体験)

クール/サンモリッツ〜ティラーノを結ぶパノラマ列車。区間約148km、所要およそ4時間21分。氷河から南の谷まで、この路線のハイライトが凝縮されています。パノラマ車両は乗車券に加えて座席予約が必須。同じ線路を走る地域列車なら本数も多く、予約は任意で気軽に乗れます。

グレッシャー急行=氷河特急(スイス横断級の絶景)

日本では氷河特急の名でも知られる列車で、ツェルマット〜サンモリッツを約8時間で結び、その一部にアルブラ線系統の景観が含まれます。ルート上には291の橋と91のトンネル。こちらは全席予約制です。「山岳鉄道の旅を長大スケールで楽しみたい」人向けですね。

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アルプスの氷河特急 基本セット(3両) Nゲージ

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グレッシャー急行(氷河特急)の鉄道模型(Nゲージ)です。ベルニナ急行ではなく、氷河特急のセットです。

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※料金・時刻・予約条件は変動します。Swiss Travel Pass等で運賃部分をカバーできる場合もありますが、パノラマ車両は別途座席予約料が必要です。最新情報は各公式サイト(記事末尾の出典)でご確認ください。

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おすすめシーズンは、初めてなら氷河・湖・緑のバランスがよい夏〜初秋。赤い列車と白いアルプスのコントラストを狙うなら冬もおすすめです。季節ごとに景色が別物になるのが、この路線の強みです。

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数字で見るレーティッシュ鉄道

アルブラ線 67km
ベルニナ線 61km
ベルニナ線 最高地点 2,253m
ランドヴァッサー橋 高さ65m / 長さ136m
同橋の1日通過本数 約60本
アルブラ区間 年間利用者 約150万人

自由研究コーナー

気になる「なぜ?」を、学年別に深掘りしてみましょう。

小学生向け:どうして山の上まで電車が登れるの?

Q. まっすぐ登れないほど急な坂を、どうやって登るの?
A. わざと遠回りをして坂をゆるくしているんです。山をぐるっと回るループ橋や、山の中でくるっと回るらせんトンネルを使って、少しずつ高さをかせいでいます。

Q. 走っているとどんなふうに景色が変わるの?
A. スタートの近くには氷河があるのに、峠を越えて南へ下るとヤシの木が見える町に着きます。同じ電車に乗っているだけで、冬から夏へ旅したような気分になれますよ。

中学生向け:橋とループの秘密

Q. ランドヴァッサー橋の写真は、なぜ「列車が空へ消える」ように見えるの?
A. 橋を渡りきった先が、すぐ断崖のトンネルの入口になっているからです。橋・列車・岩壁が一枚の絵のようにつながって見えるので、まるで空中へ吸い込まれているように写ります。

Q. ブルージオのループ橋は何のためにあるの?
A. 谷までの高低差が大きすぎて、まっすぐ下ると坂が急になりすぎるからです。ぐるっと1周して線路の長さをのばすことで、坂をゆるくして安全に下れるようにしています。

高校生向け:世界遺産の「本質」を考える

Q. なぜ「古い建物」ではなく鉄道が世界遺産になれたの?
A. 評価の中心が「古さ」ではなく、土木技術・景観との調和・社会経済への影響という総合的な価値だからです。山岳観光や地域交通を成立させたインフラそのものが評価されました。

Q. 遺産なのに、なぜ運行を止めて保存しないの?
A. この鉄道は「使い続けること」に価値があるからです。旧トンネルを安全設備として残しつつ新トンネルを掘るなど、保全と現役運行を両立させる——ここが近代インフラ遺産らしい考え方です。

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