劇場と町の社交文化

ボックス席は「見る席」か
「見られる席」か

馬蹄形にボックス席が並ぶ劇場の写真を見ていて、ふと「この席に座ったら、舞台じゃなくて向かいの席の人と目が合うんじゃないかな?」と思いました。調べてみると、まさにそこがコンドミニオ劇場の面白さでした。ここでは、劇場が町の人にとってどんな場所だったのか――舞台の外側の物語を見ていきますね。

第I章 舞台の外側にもドラマがあった

ボックス席が馬蹄形にぐるりと並ぶと、客席同士が自然と向かい合います。つまり劇場に来た人は、舞台を見るだけでなく、向かいの席にいる人を見て、そして自分も見られていたのです。誰が来ているか、誰と誰が一緒にいるか、どんな装いか――そうした光景そのものが、その日のもうひとつの”演目”でした。

だから人々は着飾って劇場へ出かけました。ボックス席は、いわば町の人たちが自分を”披露”する舞台。舞台の上の物語と、客席で繰り広げられる社交のドラマ。その両方を同時に楽しむのが、当時の劇場の醍醐味だったのです。

見る/見られる

向かい合う客席というつくりは、「観客が観客を見る」ことを前提にしていました。劇場は、演目を鑑賞する場所であると同時に、町の人間関係が目に見えるかたちで立ち現れる場所でもあったのです。

第II章 劇場は「町のリビング」だった

町の公共サロンとして親しまれたイタリア劇場のホワイエ。大理石の大階段とフレスコ画の天井、シャンデリアが華やぐ市民文化の社交空間
人々が集い語り合ったホワイエと大階段 ※イメージ

劇場の役割は、客席のなかだけにとどまりませんでした。ホワイエ(玄関ホール)や大階段、休憩用の広間(リドット)は、人々が集まって語り合う社交の空間。上演の合間や幕間には、ここで挨拶を交わし、うわさ話に花を咲かせ、商談さえまとまったといいます。まさに「町の公共サロン」、今でいえば町いちばんのリビングルームのような場所だったのですね。

大都市の大劇場と、小さな町の劇場

ラ・スカラのような大都市の大劇場の壮麗な内観。赤と金で飾られた多層のボックス席が並び、地方のコンドミニオ劇場との規模の違いを示す
華やかな大都市の大劇場 ※イメージ

ミラノのスカラ座に代表される大都市の劇場は、規模も豪華さも桁違いで、世界的なスターが集う華やかな舞台です。いっぽうコンドミニオ劇場は、それぞれの町に根ざした身の丈サイズの劇場。けれど、その一つひとつが「わたしたちの町の誇り」であり、市民が自分たちの手でお金を出し、支え、育ててきた場所でした。大きさでは大劇場にかないませんが、町の暮らしと密接に結びついていた点にこそ、この劇場群ならではの価値があります。

今も町の文化の中心で

こうした劇場の多くは、今も現役で使われています。年間100日以上も開館する劇場や、数十もの文化団体の活動拠点になっている劇場もあります。数百年前に「見る・見られる」社交の場として生まれた建物が、今なお町の文化の中心であり続けている――それこそが、この遺産のいちばんの魅力かもしれません。

自由研究にも使える!劇場と社交のトリビア

劇場と町の暮らしにまつわる豆知識を3つ。学年に合わせて選んでみてください。タップで答えが開きます。

【小学生むけ】知ってた? 劇場では、舞台だけでなく「お客さん同士」も見合っていた

ボックス席が馬のひづめのようにぐるっと並ぶと、お客さん同士が向かい合います。だからみんな、舞台を見ながら向かいの席の人のことも見ていたんです。「今日は誰が来ているかな?」とわくわくしながら、おしゃれをして出かけたんですね。

【中学生むけ】知ってた? 劇場は芝居を見る場所であり、町いちばんの”社交場”でもあった

劇場にはホワイエ(玄関ホール)や大階段、休憩用の広間がありました。人々は幕間にここで挨拶を交わし、おしゃべりを楽しみ、ときには商談までしたそうです。つまり劇場は、町じゅうの人が集まる公共のリビングルームのような場所でした。娯楽と社交と情報交換がひとつになった空間だったんですね。

【高校生むけ】知ってた? 大都市の大劇場と、小さな町のコンドミニオ劇場は”価値の種類”がちがう

ミラノのスカラ座のような大劇場は、規模と豪華さで世界に知られています。いっぽうコンドミニオ劇場の価値は、大きさではなく「市民が共同で支え、町の暮らしに深く根ざしていた」という社会的なあり方にあります。世界遺産の評価でも、建築の豪華さ(基準iv)より文化的伝統の証言(基準iii)が重視されました。”すごい建物”と”意味のある建物”はイコールではない――そんな視点で世界遺産を見比べてみると面白いですよ。

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