RAILWAY TECH

レーティッシュ鉄道の勾配
歯車なしで急坂を登る技術の秘密

最大70‰の坂を、普通の鉄道が越える仕組み

※記事内の画像はイメージです

レーティッシュ鉄道の絶景を調べていて、いちばん「どういうこと?」と引っかかったのが、この鉄道が歯車レールを使わずにアルプスの急坂を登っているという点でした。急な山を登る鉄道といえば、線路の真ん中の歯車(ラック式)を思い浮かべる人も多いはず。なのに、この赤い列車は普通の鉄道と同じ仕組みで峠を越えていく——その秘密が気になって、徹底的に調べてみました。

今回は、レーティッシュ鉄道の「勾配」をテーマに、急坂を登るための3つの工夫を、私OWT編集部がわかりやすく解説します。少し専門的ですが、仕組みがわかると車窓の景色が何倍もおもしろくなりますよ。

I. そもそも「勾配」ってどれくらい急なの?

鉄道の坂の急さは、パーミル(‰)という単位で表します。1000m進む間に何m登るか、という意味で、たとえば70‰なら、1000m進むと70m登る坂ということ。パーセント(%)でいうと7%です。

ふつうの鉄道は、この摩擦だけで登れる坂に限界があります。急すぎると車輪が空回りしてしまうからです。ところがレーティッシュ鉄道のベルニナ線は、最大70‰という急勾配を、歯車を使わずに登っています。これは粘着式(車輪とレールの摩擦だけで走る方式)の鉄道としては、世界でも屈指の急さです。

‰(パーミル)とは

1000m進む間に登る高さ(m)で坂の急さを表す単位。70‰=1000mで70m登る=約7%。数字が大きいほど急な坂です。

II. 歯車なしで登る、3つの武器

山の中で線路がらせん状に一周して高度を稼ぐレーティッシュ鉄道のらせんトンネルの仕組みを示した図
山の中で線路が一回転し、少しずつ高度を稼ぐらせんトンネルのイメージ。※イメージ

では、どうやって急勾配をこなしているのか。カギは「まっすぐ登らない」ことです。レーティッシュ鉄道は3つの工夫で、坂の急さを限界内におさめています。

武器①:らせんトンネル

アルブラ線で多用されているのがらせんトンネル。山の中で線路をぐるっと一回転させ、同じ場所で高さだけを変える仕組みです。まっすぐ登れば急になりすぎる坂を、山の中で「距離をかせいで」ゆるやかにしているわけですね。

武器②:ループ橋

ベルニナ線の南側にあるブルージオのループ橋は、線路が円を描いて回り込みながら高度を変える高架橋です。トンネルではなく屋外でぐるっと1周するので、車窓からその不思議な形がよく見えます。急な谷を、坂をゆるめながら下るための装置です。

武器③:急曲線とルート取り

ベルニナ線は、道路沿いの地形をなぞるようにルートを取り、急なカーブを多用して高度を処理しています。山をまっすぐ貫くのではなく、地形にとことん合わせて曲がりくねることで、無理のない勾配を保っているんです。

つまりレーティッシュ鉄道は、「山を征服した鉄道」ではなく「山に合わせた鉄道」。この自然への徹底した適応こそが、世界遺産評価の中心になっています。

III. 数字で見る、標高と線路の幅

緑の斜面で360度回り込みながら高低差を処理するブルージオの円形ループ橋を走るレーティッシュ鉄道の列車
円を描いて高度を下げるブルージオのループ橋。※イメージ

勾配とあわせて知っておきたいのが、標高と線路の幅(軌間)です。

ベルニナ線 最急勾配 70‰
ベルニナ線 最高地点 2,253m(オスピツィオ・ベルニナ)
ベルニナ線 最低地点 429m(ティラーノ)
軌間(線路の幅) 1,000mm(狭軌)

注目は軌間1,000mm。日本のJR在来線(1,067mm)や新幹線(1,435mm)より狭い「狭軌」です。線路の幅が狭いと、急なカーブを曲がりやすくなります。山岳地帯で細かく曲がりくねって高度を処理するこの鉄道にとって、狭軌は理にかなった選択なんですね。

そして標高差にも注目です。最高地点2,253mから最低地点429mまで、その差は約1,800m。この大きな高低差を、歯車なしの粘着式で、しかも安全に処理している——ここにこの鉄道の技術の凄みが詰まっています。

自由研究コーナー

坂・車輪・線路の秘密を、学年別に深掘りしてみましょう。

小学生向け:どうして急な坂を登れるの?

Q. まっすぐ登れないほど急な坂を、どうやって登るの?
A. わざと遠回りをして、坂をゆるくしています。山の中で線路をぐるっと一周させたり(らせんトンネル)、外でぐるっと回ったり(ループ橋)して、少しずつ高さをかせいでいるんです。

Q. 「歯車」って何のこと?
A. すごく急な坂を登る電車の中には、線路の真ん中にギザギザの歯車レールを付けて、歯をかみ合わせて登るものがあります。でもレーティッシュ鉄道は、その歯車を使わずに登っているのがすごいところなんです。

中学生向け:‰(パーミル)を計算してみよう

Q. 70‰ってどれくらいの坂?計算してみよう。
A. ‰は「1000m進む間に何m登るか」。70‰なら1000mで70m登ります。100m進めば7m登る計算。かなりの急坂だとわかりますね。

Q. なぜ「粘着式」で急坂を登れるように工夫したの?
A. 歯車式(ラック式)は設備が複雑でコストもかかります。らせんやループで坂そのものをゆるくできれば、普通の鉄道の仕組みのまま山を登れる。シンプルさと効率を両立させた選択だったと考えられます。

高校生向け:なぜ「狭軌」を選んだのか

Q. 線路の幅が狭い「狭軌(1,000mm)」を採用したのはなぜだと思う?
A. 軌間が狭いほど急なカーブを曲がりやすくなります。山岳地帯で細かく曲がって高度を処理するこの鉄道には、狭軌のほうが適していた——「速さ」より「地形適応」を優先した設計思想が読み取れます。

Q. 発展学習:日本の鉄道の軌間と比べてみよう。
A. JR在来線は1,067mm、新幹線は1,435mm。用途によって幅が違います。「なぜこの路線はこの幅なのか」を調べると、鉄道が地形や目的に合わせて設計されていることが見えてきます。

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