WORLD HERITAGE LAB
マチュピチュの石積みは
なぜ崩れない?
モルタルなしで500年。インカの石の技術を、道具と運び方から読み解く
マチュピチュの写真を拡大して見たとき、石と石のあいだにほとんどすき間がないことに気づいて、「接着剤もなしにどうやって?」と思ったのが調べ始めたきっかけです。しかもこの地域は地震が多いのに、500年以上たった今も壁がしっかり立っています。鉄の道具も車輪もなかった時代に、インカの人たちはどうやってこんな石積みを作ったのか。この記事では、石積みの種類から、石の切り出し方、運び方、地震に強い理由までまとめてみました。
マチュピチュ全体についてはマチュピチュとは?歴史と見どころで紹介しています。
※この記事にはPRを含みます。
この記事で分かること
- マチュピチュの石積みの種類と使い分け
- 鉄も車輪もない時代の石の切り出し方・運び方
- 地震で崩れない「台形」と「かみ合わせ」の秘密
- 建設の6割は地下?見えない基礎工事の話
マチュピチュの石積みの技術とは

モルタルを使わない石組み
マチュピチュの建物は、ほとんどがモルタル(石と石をくっつける接着剤のようなもの)を使わない「空積み」で作られています。石同士の形をぴったり合わせ、重さとかみ合わせだけで壁を支えているんです。
KEY FACTS
遺跡の標高
約2,430m
作られた時代
15世紀
建物の数
約200
石の種類
花崗岩(遺跡内の石切り場から採石)
つなぎ方
空積み(モルタルなし)
切石積みと野石積みの違い
よく見ると、マチュピチュの石積みは場所によって作り方がちがいます。大きく分けると次の2種類です。
| 種類 | 特徴 | 使われた場所 |
|---|---|---|
| 切石積み(アシュラー) | 石を四角く整え、すき間なくぴったり積む | 太陽の神殿、三つの窓の神殿など大事な建物 |
| 野石積み | 形をあまり整えない石を、泥などでつなぎながら積む | 住居、倉庫、段々畑の壁など |
つまり、神殿のような特別な建物にだけ、手間のかかる切石積みが使われていたんですね。すべての壁が完ぺきなわけではなく、建物の大切さに合わせて技術を使い分けていたところに、インカの人たちの合理的な考え方が表れているかなと思います。
遺跡の中にある石切り場
マチュピチュには、遺跡の中に石切り場があります。尾根には、もともと割れ目の多い花崗岩がごろごろしていて、それを材料にしました。いまも石切り場には、切り出し途中の石が残っています。
2019年にアメリカ地質学会で発表された研究では、マチュピチュが断層(地面のずれ)が交わる場所に作られていて、断層のおかげで岩が割れやすく、石材を手に入れやすかったのでは、という説も示されています。
鉄を使わない石の加工法
インカには鉄の道具がありませんでした。そのかわりに使われたのが、ハンマーストーンと呼ばれる、加工する石より硬い石です。これで石の表面を何度もたたいて少しずつ削り、形を整えていったと考えられています。細かい部分には青銅(銅とスズの合金)の道具も使われました。
建築学者ジャン=ピエール・プロッツェンは、インカの石切り場に残る石を使って、実際にハンマーストーンで石を加工する再現実験を行いました。その結果、荒く削るときは数kgの重い石、仕上げには数百gの小さな石と使い分けることで、表面のかけらを少しずつはがしながら、短い時間でも平らな面を作れることが分かりました。インカの技術は「魔法」ではなく、道具の使い分けと根気の積み重ねだったんですね。
STEP 01
石を選ぶ
石切り場で、割れ目を利用して使いやすい大きさの石を取り出す
STEP 02
大まかに割る
割れ目にくさびを打ちこんだり、たたいたりして形を整える
STEP 03
たたいて削る
硬いハンマーストーンで表面をたたき、少しずつ平らにする
STEP 04
合わせて調整
となりの石に当てては削る作業をくり返し、ぴったり合う形にする
豆知識
石をぴったり合わせるため、一度積んだ石を持ち上げ、当たっている部分を削ってはまた積む作業をくり返した、という説があります。時間はかかりますが、確実な方法ですね。
マチュピチュの石積みが崩れない理由

巨石を運んだ方法
インカの人たちは車輪を荷車に使わず、荷物を運べる大きな動物もリャマくらいでした。リャマが運べる荷物は30kgほどなので、大きな石は人の力で運んだと考えられています。
- 縄で石をしばり、大勢で引っぱる
- 坂道(傾斜路)を作り、少しずつ引き上げる
- 木の棒をてこにして、石を少しずつずらす
マチュピチュの場合は、遺跡の中に石切り場があったので、遠くから運ぶ必要があまりなかったのも大きなポイントです。ほかのインカ遺跡では、数km先の石切り場から巨石を運んだ例もあります。
台形の入口と内側への傾き
マチュピチュの入口や窓、壁のくぼみは、上がせまく下が広い台形になっています。さらに、壁そのものも少し内側にかたむけて積まれています。
台形にすると、上からの重さが両側の柱に分かれて伝わり、地震で揺れても形がくずれにくくなります。三角形のおにぎりが立てても倒れにくいのと、少し似ていますね。
地震で石が踊るしくみ
モルタルで固めていないことは、じつは地震に強い理由のひとつです。大きく揺れたとき、石はその場で少し動きますが、かみ合わせがしっかりしているので、揺れがおさまると元の位置にもどります。これを地元では「石が踊る」と表現することもあります。
実際に1650年にクスコを大地震がおそったとき、スペイン人が建てた教会や建物の多くが崩れた一方で、その土台になっていたインカの石壁は残った、という記録があります。今もクスコの街を歩くと、下半分がインカの石積み、上がスペイン風の建物という姿をあちこちで見ることができます。
固めた壁は、揺れの力を逃がせずにひびが入りやすくなります。インカの石積みは、あえて固めずに揺れを受け流す作りになっていた、ということですね。
建設の6割は地下の基礎
マチュピチュの水と土木を調べた技術者ケネス・ライトらは、建設作業の約6割は、目に見えない地下の部分だったと推定しています。建物や段々畑の下には、大きな石や砂利を何層にも重ねた基礎が埋まっているんです。
この基礎は、建物を支えるだけでなく、雨水を地下に逃がす排水の役目もしています。水のしくみについてはマチュピチュの水路の記事でくわしく紹介しています。
クスコの12角の石との比較
インカの石積みといえば、クスコの石畳の通りにある12角の石が有名です。12もの角をもつ石が、まわりの石とすき間なく組み合わされていて、インカの切石積みの代表として紹介されます。
クスコ近くのサクサイワマンという遺跡には、100トンをこえるともいわれる巨石が使われています。マチュピチュの石は、それらにくらべると小さめですが、山の上という条件の中で、神殿・住居・畑の壁まで技術を使い分けているのが特徴です。
マチュピチュの石積みのまとめ
マチュピチュの石積みは、モルタルを使わない空積みで、神殿には切石積み、住居には野石積みと使い分けられていました。鉄も車輪もない時代に、硬い石でたたいて形を整え、台形の入口や内側へのかたむき、かみ合わせで地震にも強い壁を作ったんですね。さらに建設作業の約6割は地下の基礎にあり、見えないところまで工夫されていたことが分かります。

自由研究にチャレンジ!
記事の本文には書いていない豆知識をクイズにしました。タップすると答えが開きます。
【小学生むけ】知ってた?インカの人たちは石を食べ物と交換していた?
答え:いいえ。インカにはお金も市場もほとんどありませんでした。
インカ帝国では、税はお金ではなく「働くこと」で納めるしくみでした。石を切ったり運んだりする人たちも、交代で働きに来た人たちで、そのあいだの食べ物や飲み物は国が用意していたと考えられています。
調べ方のヒント:「お金がない国」でどうやって人を集めて働かせたのか、本や百科事典で「ミタ」を調べてみよう。
【中学生むけ】知ってた?ハンマーストーンはどうやって選ばれた?
答え:加工する花崗岩より硬い石が選ばれました。
石の硬さは「モース硬度」という目安で比べられ、硬い石ほど柔らかい石を削れます。インカの職人は、川原などから硬くて割れにくい石を探し、手に持ちやすい大きさのものを道具にしていたと考えられています。
調べ方のヒント:身近な石(砂岩・花崗岩・石灰岩など)を集め、くぎで傷がつくかどうかで硬さを比べる実験をしてみよう。
【高校生むけ】知ってた?インカの壁が内側にかたむいているのは、ほかの文明にもある工夫?
答え:エジプトのピラミッドや日本の城の石垣にも、似た考え方があります。
重い構造物は、上ほど細く・内側にかたむけると重心が低くなり、倒れにくくなります。日本の城の石垣の「反り」も、外にはらみ出すのを防ぐ工夫です。文明がちがっても、同じ物理の原理にたどりついていたのはおもしろいですね。
調べ方のヒント:積み木で「まっすぐ」「内側にかたむけた」「台形の入口」の3種類の壁を作り、机をゆらして倒れにくさを比べよう。
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